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焦点反戦デモ参加者のために立ち上がるロシアの若手弁護士 - ロイター (Reuters Japan)

[4日 ロイター] - ソフィア・ゴミノワさん(29)が弁護士を志したのは11歳の頃だ。ソ連崩壊後に生まれたゴミノワさんは、組織犯罪に悩まされるロシアで育ち、テレビで刑事ドラマを見て、「あんなふうに悪と戦いたい」と考えるようになった。

 ソフィア・ゴミノワさん(写真)が弁護士を志したのは11歳の頃だ。ソ連崩壊後に生まれたゴミノワさんは、組織犯罪に悩まされるロシアで育ち、テレビで刑事ドラマを見て、「あんなふうに悪と戦いたい」と考えるようになった。今やっていることが、まさにそれだ、とゴミノワさんは信じている。サンクトペテルブルクで6月撮影(2023年 ロイター/Anton Vaganov)

今やっていることが、まさにそれだ、とゴミノワさんは信じている。

体制批判への抑圧に憤慨する若手弁護士の1人として、ゴミノワ弁護士は「OVDインフォ」に身を投じた。ウクライナへの全面侵攻に反対して拘束された数千人の収監者を支援している、ロシア国内有数の弁護士団体だ。

ゴミノワ弁護士はポーランドを拠点として活動するロイター記者の取材に対し、「以前から正義感は強い方だった」と語る。

「体制側の手で数多くの不正が行われていることを悟った。市民の権利を侵害し、不当に逮捕し、身体的なダメージを与え、不合理な裁定や判決を下している」

昨年開始したウクライナ侵攻に対する抗議行動が始まると、ゴミノワ弁護士は、サンクトペテルブルクの凍えるような寒空の下、何時間にもわたり裁判所に入るのを待つようになった。中に入ると、逮捕されたデモ参加者についての数十件もの審理が進められる法廷を次々に駆け巡った。

疲れ切って帰宅すると、上訴に向けた作業に取り掛かる。

「抗議参加者を法廷で弁護すること、それが私なりの抗議のやり方だ」とゴミノワ弁護士。侵攻が始まってまもない頃から、法廷で反戦活動家たちの弁護を始めた。

ロシア政府当局は、西側諸国によって祖国の破壊を唆されたトラブルメーカーに対して正当に法を執行していると主張する。当局は、収監者への虐待行為を否定し、人権派弁護士を「社会の敵」と位置づけることもある。

政権に批判的な人々を弁護することは、戦時下にあるロシアではかなりのリスクを伴う。ウクライナ侵攻に異議を申し立てたことを理由に、学童や年金生活者ですら処罰を受ける国だ。

侵攻反対を公言したことで訴追された弁護士もいる。数十人が弁護士資格を剥奪され、複数の高名な弁護士がロシアを離れた。

だが、OVDインフォで広報を担当するビオレッタ・フィッツネル弁護士によれば、そうしたリスクがあるにもかかわらず、侵攻開始以来、国外に逃れた弁護士の3倍にあたる120人の弁護士が同団体に新規加入し、総勢442人に増えたという。

多くの市民団体が国家により解散させられ、団体に所属せず単独で反戦活動家の弁護に当たっている弁護士もいる。その数を明らかにすることは困難だ。

サンクトペテルブルク弁護士協会によれば、昨年3月以降に加入した弁護士は222人で、会員は合計4692人になったが、そのうち何人が活動家の弁護を担当しているかという情報はないという。新規に参加した弁護士のうち7人について、その後資格停止または未更新になったとしているが、理由は明らかにしていない。

モスクワ弁護士協会にもデータを求めたが、回答は得られなかった。

<めったにない無罪判決>

ロシアの法廷で無罪判決が出ることは全般的にまれで、同国の司法制度は非常に政治的だという批判もある。

とはいえ、反戦活動の弾圧状況を明らかにするという点で、弁護士が果たしている役割は重要だ。OVDインフォの集計によれば、昨年2月以降、反戦活動を理由として2万人近い人々が拘束されたという。

ロシア内務省に拘束の状況に関してコメントを求めたが、回答は得られなかった。

司法の独立について最高裁判所司法局に問い合わせたところ、「裁判官は独立しており、ロシア憲法と法律にのみ従う」と回答があった。

またロシアを脱出していない著名な反体制派のほとんどは獄中にある。プーチン大統領を批判する人物の中で最も有名なアレクセイ・ナワリヌイ氏は、侵攻開始前に収監された。

政府に批判的なジャーナリストで活動家のウラジーミル・カラムルザ氏は4月、ロシア指導層とウクライナ侵攻を非難したことで、国家反逆罪などで25年の禁錮刑が言い渡された。この種の罪としては、2022年2月以降で最も厳しい量刑となった。

閉ざされた扉の背後で進められる長期にわたる裁判の間、抗議デモ参加者にとっては弁護士が最後のコミュニケーション経路となることがある。

カラムルザ氏の妻エフゲニアさんはロイターに対し、「弁護士たちは裁判期間中も彼らの声となり、ひそかに情報を拘置所の外に持ち出し、こうした収監者にとって外界との接点となる」と語った。

カラムルザ氏を担当した長年の友人でもあるバディム・プロコロフ弁護士もプーチン氏に批判的な立場だが、カラムルザ氏の判決が下される数日前に、自らも刑事訴追を受けかねないとの懸念から、ロシアを脱出した。

ロシア出国後、プロコロフ弁護士は米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカに対し、「ロシアでは現在、ジャーナリストだけではなく、弁護士に対しても攻撃が行われている」と語り、すでに数人の弁護士仲間が逮捕されたと続けた。

複数のロシア人弁護士は、ウクライナ侵攻を批判した人物を弁護したことだけでなく、自らも反対姿勢を表明したことで、当局に目をつけられ、非難されている。

<雪に書いた抗議>

ドミトリー・タラントフ弁護士は以前、反逆罪により22年の刑期で服役中の著名なジャーナリスト、イワン・サフロノフ氏の弁護を担当した。いま、タラントフ氏自身も最長10年の禁錮刑を受ける可能性に直面している。フェイスブックに、ロシア軍が「極めてナチス的な行為」に関与していると投稿したためだ。

OVDインフォに参加しているマリア・ボンツラー弁護士は、昨年、2回の罰金刑を受けた。反戦デモ参加者を弁護する際に、法廷で「戦争」という言葉を口にしたことで「軍の信用をおとしめた」とされた。

モスクワの北東に位置するイワノボ市のアナスタシア・ルデンコ弁護士は、テレグラム上の「弁護士と一緒なら怖くない」と題する自身のチャンネルに投稿した動画が「軍の信用をおとしめた」と判断され、6月に3万ルーブル(約4万7000円)の罰金刑を受けた。

ルデンコ弁護士はテレグラムのチャンネルを使い、約400人のチャンネル登録者に向けて、自身が担当する裁判の様子を報告している。ウクライナで負傷し、原隊復帰を拒否している兵士に対する刑事訴訟もその1つだ。

ルデンコ弁護士はウクライナに家族がいるが、夫と兄は共にロシア軍の兵士である。反戦デモに数回参加し、全体主義を批判するジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984年』を通行人に配布した。

ルデンコ弁護士はロイターに対し、「国家には独自の見解があり、その観点からすると、私たちは意見があっても自分の胸にしまっておけ、ということになる」と語った。

ルデンコ弁護士は投稿した動画の中で、ウクライナ侵攻について自分の見解を明言しているわけではない。今年に入って、自分のチャンネルに反戦的内容が含まれないか当局が調査を開始したことでショックを受けたと話す。

「なぜ、彼らはこんなことをするのか。単に、力を持っているのはわれわれだ、いつでもたたきつぶしてやる、と誇示するためだろう」と同弁護士は言う。「つぶせるものなら、つぶしてみればいい」

インタビューの中で、ロシアの司法制度における経験年数の少ない若手弁護士の一部は、反戦活動家の弁護を担当すると決意したものの、非常に疲れる仕事であることが分かったと話している。

モスクワ地域で国選弁護人を務めるユーリ・ミハイロフ弁護士(25)は、昨年3月初めにOVDインフォに参加した。

依頼人の大半は、ちょっとした抗議行動を理由に逮捕されている。ある男性は、侵攻開始から1年が経過した日、モスクワの公園で雪に「365日分のNO」と書いたことが理由だった。

だがミハイロフ弁護士の依頼人には、公共の場所で「自分の仕事をしていた」一般市民もいる。同氏によれば、逮捕された理由は、間違ったタイミングで間違った場所にいただけだという。

「裁判官に対して、『2x2=4』だと説得力ある弁論をすることはできるし、相手もうなずいてくれるかもしれない。だが結局は『2x2=5』という判断が示される」

サンクトペテルブルクのゴミノワ弁護士は、ウクライナ侵攻前、家庭間の争いから消費者の権利擁護に至るまで、主に民事訴訟を担当していた。自分を「売国奴」だと思う知人も少しいる一方で、ほとんどの友人や親族は、彼女の身を案じつつも、誇りに感じてくれているという。

「法廷を出るときにとても腹が立っていて、戦い続けようという力が強く沸き起こってくるのを感じることもある。でもある時には、法廷の扉を閉じると無力感から涙があふれることもある」とゴミノワ弁護士は語った。

「私の中に力があるかぎり、私はロシアにとどまる」

(Lucy Papachristou記者、翻訳:エァクレーレン)

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