[ニューヨーク 23日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ジャネット・イエレン氏を米財務長官に起用するという人事は一見すれば、無難な選択と言える。米連邦準備理事会(FRB)議長を務めたほか、金融・経済分野で何十年にもわたる豊富な経験を持っているからだ。だがイエレン氏の「進化能力」の高さを考えると、状況によっては実は予想外に大胆な人を選んだと証明されてもおかしくない。
米紙ウォールストリート・ジャーナルは23日、大統領選の勝利を確実にした民主党のバイデン氏が、イエレン氏を次期財務長官に指名する意向だと伝えた。そうなれば上院でも承認される公算が大きい。イエレン氏がFRB議長に就任した当初に6.5%を超えていた米国の失業率は、任期中に2.5ポイントも低下。同氏はFRBの独立性も一貫して擁護し、議長をパウエル氏に交代させたトランプ大統領でさえ、イエレン氏を過剰に叩こうとはしなかった。
イエレン氏の伝統的な金融政策運営が、幾つかの失敗につながったのは確かだ。同氏は常に、失業率押し下げのために緩和的な政策を志向するハト派と目されてきたが、物価上昇率が低いままなのに計5回の利上げを実施。経済が上向き、5%前後という失業率は物価上昇が始まるほどの低さだという考えがその根拠となった。ところがパウエル議長の下で失業率は一層低下しながら、大幅な物価上昇を引き起こしていない。
この面で現在のイエレン氏は、かつての彼女とは違うように見える。18年に議長を退任して以来、政策金利をゼロ近辺まで引き下げ、新たな貸出制度を設けるといったパウエル氏の積極的な政策対応をずっと支持しているのがその表れだ。最近FRB自体が政策方針を軌道修正して、もはや単に失業率が低いからという理由で利上げを支持しない考えを打ち出したのと同様に、イエレン氏も物価上昇を生まない失業率の下限に関する認識を改めたのかもしれない。
イエレン氏は、財政赤字への姿勢も変わってきている。17年当時、米国の債務が約15兆ドル、国内総生産(GDP)の75%前後に達した際に、「国民が安眠できなくなる」はずだと警鐘を鳴らした。しかし新型コロナウイルスのパンデミックが発生する直前の今年1月、気候変動問題などに関する財政支出拡大を容認する態度を示し、その後コロナ対策を巡る支出増にも賛成している。
だとすればイエレン氏は結局、思い切った政策措置をより前向きに進めようとするかもしれない。FRB議長から財務長官に転身したケースは過去に1人、カーター政権のミラー財務長官しかいない。そのミラー氏は、劇的な政策変更が必要な局面で決断ができなかったため、FRB議長としても財務長官としても、合格点に程遠かった。イエレン氏は、そうした負の前例を塗り替えるだけの要件を備えているのではないだろうか。
●背景となるニュース
*バイデン氏は、次期財務長官にイエレン前連邦準備理事会(FRB)議長を指名する意向だ。米紙ウォールストリート・ジャーナルが23日、関係者の話として伝えた。
*イエレン氏は、オバマ前政権によって指名されたFRB議長を2014年から18年まで務めた。その前は10─14年がFRB副議長、04─10年がサンフランシスコ地区連銀総裁、1994─97年がFRB理事。1997-99年にはクリントン政権の大統領経済諮問委員長も経験した。
*イエレン氏が次期財務長官に指名された場合、上院で過半数の賛成が得られれば正式に就任することになる。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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