[北京 1日 ロイター] - 中国の全国人民代表大会(全人代、国会)常務委員会が先週、臨時会議を開いて秦剛外相(57)を解任した数時間後、秦氏に関する写真や情報は外務省のウェブサイトから消え始めた。
数日後には情報の一部が復活したが、秦氏は「元大臣」リストに掲載されておらず、名前を検索しても「申し訳ありませんが、秦剛は見つかりません」と表示される状態が続いた。
実際、秦氏は1カ月以上公の場に姿を現していない。
秦氏が数週間前、東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会合を欠席した際、外務省は「健康上の理由」とだけ説明していたが、この発言は後に公式記録から削除された。
しかし今回の騒動を機に、秦氏の命運のみならず、彼のスピード昇進を支えた習近平国家主席にどのような影響が及ぶかを巡り、憶測が広がり続けている。
政府は秦氏の後任に前外相の王毅氏を充てたが、交代の理由はほとんど説明していない。
外務省の毛寧副報道局長は7月27日、政府は秦氏に関する情報を適時発表し、悪意のある臆測に反対すると述べた。
<広がる臆測>
秦氏が説明もなく長期間姿を消し、任期半ばで突如解任され、外務省ウェブサイトの記述が削除されるなど奇妙な出来事が相次いでいるだけに、憶測は今後も飛び交い続けそうだ。
米外交問題評議会の中国研究シニアフェロー、イアン・ジョンソン氏は、「真実はいずれ明らかになるだろう。中国では時に数カ月から数年かかることもあるが、通常はそうなる。ただ、彼の解任のされ方を見る限り、健康上の理由とは考えにくい」と語った。
北京を拠点とする政治アナリストの呉強氏は、「健康が本当の理由である可能性はほぼ無い」と明言する。仮に健康上の理由であれば、国は公式に秦氏を解任するのではなく、副大臣を代行に任命することもできたはずだという。
秦氏は昨年12月、5年の任期で外相に就任し、歴代最年少の外相の1人となった。しかし在職期間は約半年で終わった。
中国では高官が姿を消し、集団的記憶から抹消された前例がいくつもある。
肖亜慶・前工業情報相は昨年、汚職の疑いで調査されていることが明らかになるまで、1カ月近く姿を消していた。また外務省は2016年、汚職と権力乱用で有罪判決を受けた張昆生・元外務次官補のオンライン上の痕跡をすべて削除した。
<ワンマン政治>
しかし、秦氏のケースは明確に割り切れるものではない、と言う専門家もいる。
7月25日に開催された全人代常務委員会は、国務委員という秦氏のもう1つの肩書きを削除する権限があるにもかかわらず、削除しなかったと専門家は指摘する。国務委員は大臣より上位の国務院メンバーだ。
また目撃者によると、27日時点でワシントンの中国大使館の壁には、元駐米大使である秦氏の肖像画が飾られたままだった。
アナリストは、秦氏がほんの数カ月前、外相就任前の厳格な身辺調査を経たはずだとも指摘する。
中国共産党の規定では、要職に就く人々は思想や仕事ぶり、党の規律順守といった基準に照らして審査される。家族についても、海外居住歴や保有資産など詳細な情報開示が求められる。
習近平氏は2012年の総書記就任以来、汚職を撲滅し党の規律を徹底させるために多くの規制を導入。アナリストによると、これが党員の習氏に対する忠誠心を強固なものとしてきた。
しかし秦氏の解任が単なる健康上の問題ではないとすれば、習氏自身の判断が問われることにもなる。秦氏がごぼう抜きの昇進を遂げた理由の一端が習氏との親密さにあったとされるだけに、なおさらだ。
秦氏が習氏の目に留まるようになったのは、習氏の最初の任期中に儀典局長を務めた時だった。
秦氏はその後5年のうちに駐米大使、そして外相兼国務委員と、猛スピードで出世した。
前例のない3期目に入った習政権の現在の指導部は、同氏が以前一緒に仕事をし、信頼する高官で構成されているとアナリストは言う。
習氏は指導部候補者リストを最終決定する際、現職や引退後の幹部らに投票させるという伝統的な手続きを採らなかった。国営新華社通信によれば、代わりに習氏が個人的に候補者に会い、他の人々と相談した後、習氏の「直接指導」の下で顔ぶれが決まった。
シンガポールのリー・クワンユー公共政策大学院のアルフレッド・ウー准教授は、「秦氏の騒動により、習氏のワンマン政治の脆弱性が露呈した」と述べた。
(Yew Lun Tian記者)
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