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『一緒に生きたい』が欠けた、この世界へ - nhk.or.jp

 「どちらかに立つのは分断ですよ。どちらにも立つ。どちらの人も同じ人間だって発想を持たないと、分断でどんどん対立が膨らんでいく」

 激しい戦闘によって人道危機が深まるパレスチナのガザ地区。民間人の犠牲者は日に日に増え続けています。

 パレスチナを含む世界の紛争地を取材してきた、北海道釧路市の写真家・長倉洋海さん。現状を憂い「世界には共存しか道がない」と訴えています。
 (釧路放送局 記者  中山あすか) 

ジャーナリストとしての原点にパレスチナの現場

扉を開けると、真っ先に目に飛び込んできたのは、壁一面に貼られた写真やポスターの数々。

写真家・長倉洋海さんは、40年以上にわたって世界各地の紛争地や辺境を取材し、現在は生まれ育った釧路市を拠点に活動しています。

長倉さんがフォトジャーナリストとして「撮り、伝えること」の重さを教えられたと話すのが、パレスチナの人たちとの出会いです。
1982年、数千人とも言われるパレスチナ難民が虐殺されたレバノンの現場を取材。世界にこの現実を伝えることの必要性を痛感したといいます。

長倉さん
「人がいないキャンプをずっと歩いていったら、泣き叫んでいる女の人が何人か現れて、『神様』って泣いている。一時キャンプを逃れた人たちが戻ってきて、自分の家族を探しているシーンだったんですね。 
今のガザで死体がたくさん並んでいる写真を見ても、本当に胸が詰まるというか、もうこういう歴史がずっと続いてきたこと、言いようのない憤りみたいなものを感じますよね」

増え続けるガザの犠牲者 銃を置き、共存の道を

ことし10月のイスラム組織ハマスによる大規模な奇襲攻撃と、その後のイスラエル軍によるガザ地区への激しい空爆と地上侵攻。パレスチナ・イスラエル双方で多くの民間人が犠牲となっています。

長倉さんは、双方が銃を置き、共存の道を模索することを強く望んでいます。

長倉さん
「今1番見ていて悲しいのは、人々があんなに殺されているってことなんですよ。双方言い分があると思うんです、今回のことに関して言えば。イスラエルは先に攻撃を受けているので、それをやり返す理由がある。パレスチナは今まで抑圧され、世界が無視して何も声を上げないことに対する怒りが背景にある。だけど、無実の人を殺していいということにはならない。
やっぱり『共存』ということを1番に考えなければ。彼らの悲劇、大変な歴史は、もちろんわかる。でも、どちらかに立つのは分断ですよ。どちらにも立つ。どちらの人も同じ人間だって発想を持たないと、分断でどんどん対立が膨らんでいく」 

必要なのは教育 日本も心に届く支援を

日本も教育の支援や難民の受け入れなど、さまざまな分野で支えていく必要があると考えています。

長倉さん
「難民がたくさんこれからも生まれると思います。彼らが彼らの力で生きられるように、長い時間がかかるかもしれないけれど、それを見通し、各国にいるパレスチナ難民に教育を与える。未来のパレスチナをつくる人材を育てていく。僕は鉛筆というか勉強、いつか国をつくるのはやっぱり銃ではないと思うんですよ。
日本が引き受けて、“将来パレスチナに平和が戻った時まで教育を受けてください”ってことはできるんですか。本当にガザの人に心を寄せているのなら、心に届く支援がないと」

「あなた」の行動が、世界を変える力に

ガザ地区の悲惨な状況が注目される一方で、長倉さんがこれまでの取材を通して指摘するのは、アフガニスタンで女性たちが教育の機会を与えられなかったり、ブラジルで先住民が迫害されたりするなど、ほかにも世界中で人の命や生活が脅かされているということです。

長倉さん
「新聞やテレビはガザのことを伝えているけど、犠牲者が『何万だから』騒ぐ人は、それが例えば数が減ったりしたらもう忘れていく。次の何万のところに目がいくわけです。
そうではなくて、1つ1つの自分のところで関わった人たちの正義をそこでできるように目配り、手助け、支援をする。それがひいては、今世界を覆っている、分断を好んだり自分の権力のために戦争をしようとする・続ける人たちを止めることになる。あなたはその手助けができるかもしれない」

長倉さんが平和のために欠かせないと考えるのが、私たち一人一人がそれぞれの関わりのなかで行動することです。
自身は、長年にわたってアフガニスタンを取材し、NGO「アフガニスタン山の学校支援の会」の代表として、現地の学校で教育支援を行っています。

10月、地元の釧路市で行われた、自らの紛争地での活動を描いたドキュメンタリー映画の上映会に臨んだ長倉さん。
タリバンが復権して2年経つアフガニスタンの現状や「山の学校支援の会」の活動について報告するとともに、訪れた人たちに、紛争地などで起きている現実に対し、自分には何ができるのかを考えてほしいと呼びかけました。

長倉さん
「アフガニスタンの人もパレスチナの人もアマゾンの先住民も、翼を奪われたような形で閉じ込められている。これは1か所の問題じゃない。リスペクト=共存なんですよ。一緒に生きたいという気持ち。これが今世界で1番欠けている。これは全部つながってるということなんですよ。世界は1つ1つじゃない。底ではつながっている。『自分だけが今良ければいい、自然も関係ない、未来も関係ない』という発想をどこかで変えないと。それぞれが自分のとこで1歩踏み出して、もうちょっと頑張ってみる。それが時間はかかるけど、世界を少しずつ変えていく力になる」
参加した60代女性
「現状をその時間その時間見てきた人だけが、こう伝えられる実感みたいなものが熱を持って伝わってきた」
参加した40代女性
「今の日本の私たちも、自分さえよければいいってことは差別や多様性の否定、そういうのにつながったりするのかなと」

取材後記

パレスチナの分断や対立は、日本からも心に届く支援が必要であると同時に、ほかの世界の出来事ともつながっているという長倉さんのメッセージ。そして自分の身近な関わりから正義を実現しようと働きかけることが、ひいては平和につながっていくという呼びかけを受けて、改めて自分がどのように取材活動にあたっていきたいか考えさせられました。

今回、釧路市で上映会が行われた、長倉さんのアフガニスタンでの活動などを描いたドキュメンタリー映画『鉛筆と銃 長倉洋海の眸(め)』は来年1月に札幌市でも上映される予定です。
また、長倉さんは現在拠点としている釧路市で、写真やジャーナリズムに興味を持つ人などを対象に「長倉商店塾」という塾も開いています。

2023年12月5日

中山記者が書いた記事はほかにも
釧路の踏み間違え事故から1か月 対策は

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